為替レポート

03月13日~03月17日週

【為替の動向】
ドル/円(24時間)
03/13(月)03/14(火)03/15(水)03/16(木)03/17(金)
OPEN134.814133.172134.264133.342133.566
HIGH135.044134.901135.113133.826133.670
LOW132.280133.023132.211131.710131.551
CLOSE133.174134.251133.342133.596131.840

先週のドル円レンジ:131.55円~135.11円

02月21日 IMM通貨(円)先物動向(発表遅延・延期)
円:34029枚の売り越し 前週比6186枚の売越増

 新型コロナ(オミクロン変異種)の感染拡大は継続している。新種「BA.5」の変異種(派生型の「BF.7」・「BQ.1」と「BQ1.1」・「XBB.1.5」他)の感染拡大が続く。パンデミックは終わっていない。日本では、3月13日よりマスク着用について自己責任での対応となる。5月8日にも2類から5類に変更するという政府方針が報道されている。やっと、シオノギの治療薬が承認され、その普及が期待される。今後、重傷者・中等傷患者が減少し医療機関の逼迫リスクの軽減効果もある。『塩野義製薬、新型コロナ薬「ゾコーバ」に後遺症抑制効果』(22日日経)基礎疾患者・高齢者の死亡急増が報道されている。
 一方、『コロナ後遺症、パンデミック以上に警戒必要-呼吸器以外にもリスク』(22年12月19日ブルーンバーグ)『コロナ後遺症の「脳の霧」 シナプスの破壊が一因か、ナショナルジオグラフィック』(22年12月26日日経)『コロナ後遺症かも? 知っておきたい症状や回復見込み』ナショナルジオグラフィック(1月23日日経)
 
コロナによる後遺症で感染後、就業に問題が生じているとの報告もある。
 
さらに、ウクライナ戦争の長期化に起因するインフレ加速(エネルギー・食料・肥料・・・)そして、欧米各国の利上げによる対応で世界経済の景気減速が数値に表れ、ソフトランディングのシナリオに警鐘がなっている。米国ではアマゾン・ツイッター社等のIT企業中心に人員整理が始まっている。『コラム:人員削減続く米ハイテク業界、適正規模見えてきたか』(1月20日ロイター)『[FT・Lex]米テック人員削減、長期低迷でなく「再調整」』(1月23日FT)人員整理の適正擁護の記事もあった。米国の『米雇用削減、1月は10.2万件 前月比2倍超・前年比5倍超に急増』(2月2日ロイター)『GM、大半の従業員向けに早期退職募集 最大15億ドルの費用計上へ』(3月9日ロイター)『米メタ、新たな人員削減計画 昨年と同規模か=WSJ』(3月10日ロイター)もある。
 一方、金融機関でホワイトカラーの人員整理となっている。大型の企業倒産がないことが幸いしているが・・・。3月10日、米金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行の破綻があった。さらに、3月12日『シグネチャー・バンクを事業停止、NY州当局-SVB破綻の余波』(3月12日ブルームバーグ)となった。その波及が懸念される。
 また、『日銀が緩和縮小、長期金利の上限0.5%に引き上げ』(22年12月20日日経)として修正が始まった。実質の利上げではないが、変動幅を広げた。黒田日銀総裁任期終了後になると予想されていたが前倒しとなった。その後、2月10日、次期総裁報道があった。2月24日『植田日銀、副作用抑制が焦点 「市場機能に配慮」強調』(2月24日日経)次期総裁の発言に注目が集まる。「物価2%目標の達成にはまだ時間がかかるとの認識を示した。金融緩和の継続に向け、副作用の軽減につながる政策修正を検討する考えもにじませた。最大の焦点である賃上げの実現については、生産性を高めるための官民の取り組みが必要だと訴え、過度の金融政策依存を戒めた。」
 

 
政治問題として、
 
1月13日の日米首脳会談で、『バイデン政権が打ち出した「統合抑止(Integrated Deterrence)」という考え方』に沿って、『米国だけで中国を抑止することが難しくなり、日本など同盟国が抑止の一翼を担う。米国は日米豪印の4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」や米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を重視し始めた。日本も新たな国家安全保障戦略など安保関連3文書に基づき、自立した防衛力の整備を急ぐ。』『日米でばらばらだった指揮・統制系統を改め、宇宙やサイバーといった非伝統的な領域での協力にも踏み出す。自衛隊と米軍の統合運用は新たな段階に入る。』(1月15日日経記事)にあるように、日本の地政学的・軍事的に中国・ロシアとの対立構造となりうる判断を表明した。軍事的な抑制を目的にとしているが、憲法解釈・国民への説明、実戦配備まで10年の期間が必要との報道もある。この記事をどのように評価するかはこれからである。
 ドルインデックスの動きをみると、米国FRBの金利政策の方向性・企業倒産報道・企業によるリストラ報道・米国経済の減速指標報道および米国の圧倒的な軍事力および最先端技術の優位性が無くなっている現実等を材料としてドル安となっている。一方、ウクライナ戦争の長期化と欧米を巻き込む戦況拡大が懸念される。中国の仲裁発言も米中対立の顕在化で無視されそうだ。また、『サウジアラビアとイランが外交関係回復へ、中国で合意書に署名』(3月10日ブルームバーグ)の報道があった。中国を基軸とする中東地域の再編成が始まった。米中の覇権争いの側面でドル安要因となっている。

≪相場の背景とチェックポイント≫

 ≪世界景気減速懸念・デフレ・スタグフレーション≫
 昨年末『アングル:「最悪の事態はこれから」、急激なインフレという呪い』(22年12月8日ロイター)のように23年にも現実となるとの報道。『米国株の来年に危険信号、2年連続下落はまれだが下げた時は幅大きい』(22年12月21日ブルーンバーグ)。と景気減速の観測記事が見られた。
 新年を迎えても、『23年「厳しい年に」、米中欧同時減速で=IMF専務理事』(1月1日ロイター)『世界経済を待ち受けるのはより厳しい時代、著名エコノミストが警告』(1月10日ブルーンバーグ)『世銀、23年世界成長率予測1.7%に下方修正 景気後退の可能性警告』(1月10日ロイター)『世界経済、分断化で最大7%縮小の可能性=IMFリポート』(1月15日ロイター)と悲観論的な記事が散見された。
 しかし、1月23日以降、悲観論から楽観論に予測の流れが変わったようだ。
 『FRB、失業率急上昇招かず物価抑制も-シカゴ連銀エコノミスト分析』(1月23日ブルーンバーグ)『リセッション確率今や50%割れ、7種資産クラスが示唆-JPモルガン』(1月23日ブルーンバーグ)『世界経済、最悪の事態予想する見方が後退か-今週発表の統計が裏付けの公算』(1月23日ブルームバーグ)と景気悲観論を打ち消す報道があった。『米労働生産性、22年第4四半期は3.0%上昇』(2月2日ロイター)『米製造業新規受注、12月は1.8%増に回復 民間航空機の受注急増』(2月2日ロイター)とポジティブな報道となっている。
 1月23日以降、景気減速に対する認識が、悲観論から一転、楽観論が中心となった。2月3日の米国の失業率の発表以降ドル高が始まった。ウクライナ戦争の当事者が欧米対ロシアおよび中国の対立構造となり、軍事的緊迫が報道されている。一方で、G7によるロシア・中国への制裁報道が続く。こうした中、今回のG20財務相会議・外相会合で浮き彫りになったのはG7中心の枠組みが崩れ米中ロ対立構造だけでなく、インドを含めた多極構造に変化していることが示された。米国中心の覇権構造に警鐘がなっている。さらにインフレ対策としての金利引き上げの限界が見られた。ドル安への転換点ともいえる。以下の記事が参考となる。
 『世界に最も痛手を与えたトレードがついに終了、ドルはピークとの見方』(2月24日ブルームバーグ)ドル高のピーク観測が出た。世界的なインフレが長期化し、米国金利の上げの限界とその悪影響、世界経済の物価抑制のためにドル安転換を訴えている。『トレーダーは最近のデータを踏まえ米金利のピーク見通しを再考しているものの、ドル高の勢いが弱まると見込んで株式や新興国などリスク資産へのシフトが既に始まっている。』
 『戦争がウクライナを汚染、世界の「食糧庫」深刻な打撃』(3月2日ロイター)ウクライナ戦争の戦後処理問題及びインフレの長期化、食糧危機の発生が問題となってきた。戦争継続の意義が問われる。
 『中国、重要な技術分野で欧米を「圧倒的にリード」=調査』(3月2日ロイター)米国およびG7が中国を敵視する背景が見られた。資源を持つロシアとの接近を嫌った理由が垣間見られた。
 
『ポルトガルで数千人がデモ、インフレが家計圧迫』(2月25日ロイター)『ドイツでウクライナへの武器供与反対デモ、1万人が参加』(2月25日ロイター)
 『ノルドストリーム爆破背後に親ウクライナ派、米情報示唆=NYT』(3月7日ロイター)『NYTは米政府関係者の話として、ウクライナのゼレンスキー大統領や他のウクライナ政府関係者が攻撃の背後にいたことを示す証拠はなかったと報じている。』ウクライナ戦争の影響とその意義が問われている。
 『ウクライナへの大規模攻撃、ロシア国防省「報復攻撃」』(3月9日ロイター)『ロシア国防省は声明で、極超音速ミサイル「キンジャル」など、さまざまな兵器でウクライナの防衛企業、その他「軍事インフラ」を攻撃したと発表。無人機基地や弾薬製造施設などの標的を破壊し、外国製武器物資の鉄道輸送を遮断したとした。』
 しかし、3月10日、米金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行の破綻があった。今後の展開が懸念される。
 
通貨については、
 
『アングル:ドル高終えん、債券と新興市場は復活 23年市場予測』(1月3日ロイター)では、「ドルが為替相場で君臨する状態はほぼ間違いなく終わり、債券が復活し、新興国市場が再び上昇する。資産運用大手は2023年の金融市場について、こうした展開を予想している。」『ドル浮沈逆転、マクロショートで最も人気-米利上げペース減速見越す』(1月16日ブルーンバーグ)の記事が続く。『ピムコ、2023年のドル一段安見込む-安全資産需要や利回り優位後退へ』(2月2日ブルームバーグ)の観測報道もあった。また、『世界に最も痛手を与えたトレードがついに終了、ドルはピークとの見方』(2月24日ブルームバーグ)『ドルは昨年、数十年ぶりの高値に急騰し、パキスタンやガーナなどでインフレ加速や貧困問題の深刻化を招いたが、ここにきて一部の予測者が数年にわたる下げ相場と呼ぶ局面に入ったようだ。トレーダーは最近のデータを踏まえ米金利のピーク見通しを再考しているものの、ドル高の勢いが弱まると見込んで株式や新興国などリスク資産へのシフトが既に始まっている。ドルは最近、今年の下げを埋めたが、その後も多くの投資家はこうした見方を堅持し、ドル弱気論が高まっている。ドル安が世界経済にもたらす安心感は、いくら強調してもし過ぎることはない。途上国の輸入物価が下がり、世界のインフレ率の低下につながる。センチメントの改善により、株式や暗号資産(仮想通貨)などのリスク資産の価格を押し上げる可能性も高い。』
 一方で、ドル離れの動きが見られている。『インド、ロシアとのルピー建て貿易に改めて期待感=商工省高官』(1月16日ロイター)『ブラジルとアルゼンチン、共通通貨協議で一致 首脳会談』(1月24日日経)『ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体、域内への金融支援拡大訴え』(1月24日ロイター)ドルへの依存度を薄めようとする動きとなった。
 実体経済のインフレの影響に関する記事が見られる。『米主要500社の22年第4四半期、3.2%減益見込み=リフィニティブ』(1月6日・13・21日、2月10日・24日、3月10日更新ロイター)「米S&P総合500種指数採用企業の2022年第4・四半期利益は前年同期比3.2%減少する見通し。エネルギーセクターを除くと、同7.4%の減少が見込まれている。」インフレの影響が企業収益に及び始めたようだ。さらにAI技術の浸透もあり企業の適正規模の見直しが進み人員整理が加速している。
 ≪ウクライナ戦争≫
 ウクライナ戦争の休戦・停戦の動きがない。トルコ、インドネシア・さらにフランス・ドイツ等の調停役が出ても本来の当事者がテーブルに乗ってこない。ロシア・ウクライナ産の穀物および肥料の世界に及ぼすインフレの原因になっている。欧米の武器供与がさらに追加され・ウクライナへの追加経済援助もあり泥沼化している。
 一方、22年11月6日、ポーランド国境で誤射か意図的なものかは調査中として、ロケット弾による2人の犠牲者が出た。欧米の軍事援助に対する牽制の声が出始めている。ウクライナ軍によるポーランドへの誤射問題は闇沙汰にされ、『NATO、ウクライナへのインフラ支援強化を約束 外相会合初日』(22年11月29日ロイター)となった。このような状況下、『ウクライナ軍、ロシア・クルスク州の発電所を攻撃=地元知事』(22年11月30日ロイター)の報道があったが無視された。
 さらに、このような状況下、22年12月5日、『ロシア空軍2基地にドローン攻撃、ウクライナもロ軍再攻撃で各地に被害』(ロイター)22年12月6日、『ウクライナ、ロシアをまた無人機攻撃 石油タンクで火災』(ロイター)とロシア本土への攻撃が報じられている。『ロシア空軍基地に無人機攻撃、撃墜時の残骸落下で3人死亡=通信社』(22年12月26日ロイター)その報復として、ロシアのウクライナへの電気・水のインフラ攻撃が激化、現在も続く。
 一時、クリスマスに絡め停戦交渉の発言『プーチン氏、交渉の用意あると表明 「ウクライナ側が拒否」』(22年12月25日ロイター)もあったが、ウクライナ側の対応は、『ロシア供給の戦術ミサイル、使用可能な状態=ベラルーシ国防省高官』(22年12月25日ロイター)にあるように、停戦交渉どころかベラルーシ側にミサイル攻撃をした模様。『ベラルーシ飛行場の爆発、ロシア軍機へのドローン攻撃=反政府組織』(2月27日ロイター)『モスクワ南東で無人機墜落、被害なし 知事「民間施設標的」と主張』(2月28日ロイター)「コロムナの墜落にウクライナが関係していれば、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後で最もモスクワに近い場所での攻撃の未遂だ」と伝えた。ウクライナ戦争は泥沼化している。
 さらに外交によるウクライナのロシア批判に終止、和平交渉に乗ってこない。ウクライナ問題を地域問題とせず、世界世論に訴える戦略を進めている。
 
『西側諸国とウクライナ、ロシアの破壊を望んでいる=ラブロフ外相』(22年12月27日ロイター)戦争の当事者がウクライナから西側諸国となり始めた。
 兵法上、戦争であれば当たり前の戦略であるが西欧諸国は国際法違反として非難している。欧米諸国は、自国民の戦争による犠牲者が出ていないこともあり机上の空論的な『民主主義』・『人権侵害・養護』を標榜、政治的要素により、結果的に自国民にこれまでと異なる生活の窮乏を余儀なくさせている。政治的要因によるインフレの影響で、日本も電気・ガス・水道料金の高騰、各種食料品の値上げが始まっている。
 また、『G7、ウクライナ復興「ロシアが負担」 気候クラブも発足』(12月13日ロイター)の記事は、23年のG7議長国はドイツから日本にバトンが引き継がれる。ショルツ氏の置き土産となった。
 22年12月21日ウクライナ大統領の訪米に合わせ、『米、ウクライナに18.5億ドルの追加軍事支援 「パトリオット」含む』〈22年12月21日ロイター〉『米、新たに37.5億ドル超の軍事支援 ウクライナなど向け』(1月6日ロイター)にあるようにウクライナに対する追加軍事財政支援が表明されている。1月19日時点で、『米国がロシアの侵攻開始以降に発表したウクライナ向け軍事支援は274億ドル強に達した。』(1月19日ロイター)ようだ。 
 さらに、『バイデン氏、ウクライナにM2ブラッドレー供与検討を表明』『仏、ウクライナに装輪装甲車供給へ)(1月4日ロイター)『英政府、ウクライナに主力戦車14両など供与へ 訓練も実施』(1月14日ロイター)とウクライナへの援助を加速させている。欧米からの戦車供与報道が続き、さらに『米、ウクライナに長距離兵器供与へ 射程距離151キロ=国防総省』(2月3日ロイター)、『仏伊、ウクライナへの防空システム供与で合意』(2月3日ロイター)2月8日『英国は長距離ミサイルと戦闘機供与検討、ゼレンスキー氏電撃訪問』(8日ブルームバーグ)の報道があり、欧州の軍事支援が広がる。また外交面で『米国、トルコとUAEに対ロ関係縮小するよう圧力』(2月3日ロイター)との報道があった。・・・
 以下ウクライナ戦争の影響に関する記事か続く。
 『戦争がウクライナを汚染、世界の「食糧庫」深刻な打撃』(3月2日ロイター)『ロシア軍による砲爆撃による被害の実態をあらわにしたが、同時に1年にわたる戦争は、「欧州の大穀倉地帯」と称されるウクライナの肥沃な土壌に目には見えない打撃ももたらしている。』『ウクライナの土壌科学・農業化学研究院の科学者チームがサンプルや衛星画像を調査した結果、これまでにウクライナ全体で少なくとも1050万ヘクタールの農地で土壌の質が悪化したと推定されている。これはなおロシア軍に占領されている地域を含め、ウクライナの全農地の4分の1に達する。』『ロイターが25人前後の土壌分析科学者や農家、穀物企業関係者、その他専門家に取材したところ、汚染物質や地雷の除去、破壊されたインフラの復旧など穀倉地帯が受けたダメージを復旧する作業は数十年単位となり、この先何年も食糧供給がおぼつかなくなる恐れがあるとみられていることが分かった。』『土壌破壊だけでなく、ウクライナの農家は至る所に残された不発弾、かんがい設備やサイロ、港湾施設の破壊という問題にも悩まされている。ウクライナの穀物生産最大手企業の一角を占めるニブロンのアンドリー・バダチュルスキー最高経営責任者(CEO)は、地雷除去だけでも30年かかると見込んでおり、国内農家が事業を続けるためには至急金融支援が必要だと訴えた。』同氏は「今は価格の高さが問題視されているが、食料を手に入れることはできる。だが1年後には、何の解決策も講じられないとすれば、食料不足が起きるだろう」と警告する。』『第一次大戦の激戦地となったフランス・ベルダン近くでは、戦前に穀物の農地や牧草地だった幾つかの場所が砲弾孔や不発弾のため、それから100年以上経過しても農業に使えなくなっている、とフーピー氏ともう1人の学者が08年の論文で指摘している。』『ニブロン幹部はロイターに、外部の支援がほとんど得られないことから、同社はウクライナ南部の地雷を除去する小規模なチームを立ち上げたが、取り組み期間は数十年にわたるとの見通しも示した。「ニブロンにとって極めて深刻な問題になっている」という。』(抜粋・3月2日ロイター)
 ウクライナ戦争継続の意義が問われ始めた。一方で、『コラム:ウクライナの戦後復興、ブレイディ債の導入検討を』(1月11日ロイター)のように復興資金の話題が出始めた。
 一方、ウクライナに対する格付け機関は、『UPDATE 1-ムーディーズ、ウクライナ格付けをCaに引き下げ』(2月10日ロイター)とした。
 ≪ウクライナを援助する背景≫
 
1,北極圏の覇権問題
 
22年11月16日『焦点:暗転する北極圏 軍事的優位に立つロシア、追うNATO』(22年11月16ロイター)のように、北極圏の地下資源および軍事的な脅威、超高速ミサイル・潜水艦・核兵器搭載可能なロケットシステムの配備態勢と到達距離の短さ等ロシアに対する防衛の意識が高まっている。米国によるNATOの結束および欧米各国の防衛費に関する記事が多くなった背景がここにある。さらに北極圏での中国が参加した共同軍事演習もありその脅威は、ロシア・中国に対する経済制裁および各種の規制強化に結び付く。
 2,ウクライナの兵器産業の位置づけ
 
さらに、ウクライナが『“プーチンの戦争”の隠された狙い?ウクライナは“兵器先進国”だった。』【報道1930】(22年12月14日TBS)の報道に注目する必要があった。ウクライナが、旧ソ連・ロシア規格の武器製造工場であった事実から、ウクライナを取り込むことで欧米諸国にとって、対立する旧ソ連圏への牽制および武器供与を止める意義がある。中国への牽制ともなる。
 そして、中国対応の軍事的対応・先端技術の囲い込み競争が表面化してきた。『終わりなき新冷戦』の始まりといえる。ウクライナは別の見方をすれば、政治的覇権争いの『代理戦争』の意味合いもあるが、軍事兵器製造開発の拠点争奪戦とも考えられる。
 上記の背景もあり、欧米の軍事援助を受けたウクライナ軍の反撃が始まりロシア軍の撤退が報道されている。ウクライナ東部・南部へウクライナ軍の兵力集中を目論んだ作戦のようだ。兵法の一手段であろう。兵力分断作戦といえるか。一方、ロシア軍のウクライナ主要都市の電気・水道のインフラ攻撃が始まっている。また、ロシアは、長期戦へ方針転換し、欧州諸国の経済減速を待ち、冬場を迎え寒さ対策として必要な暖房資源・を武器として使用、西欧諸国の国民の不平不満爆発を我慢強く待っているように思われる。こうした中、『ノルドストリーム爆破背後に親ウクライナ派、米情報示唆=NYT』(3月7日ロイター)の記事が報道されている。『NYTは米政府関係者の話として、ウクライナのゼレンスキー大統領や他のウクライナ政府関係者が攻撃の背後にいたことを示す証拠はなかったと報じている。』が、この記事により、欧米諸国による軍事援助の『大義名分』の意義が薄くなり始めている。
 ≪ロシア≫
 プーチン大統領は、ソ連崩壊前後の状況を起草しているのだろう。さらに、北極圏の資源・軍事力の覇権争いの優位性もあって、22年2月のウクライナ侵攻を決めた可能性が高い。しかし、世界世論を背景に欧米の政治家によって持ち上げられたウクライナ大統領の世界世論を動かす行動力、そして欧米諸国の政治家の協力・援助、さらに世界のマスコミ操作・国連の共鳴は考慮していなかったようだ。一方、ウクライナは、軍事“兵器先進国”である重要性を利用した側面は否定できない。
 22年9月30日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東・南部のルガンスク、ドネツク、へルソン、ザポロジエ4州の併合を宣言し、4州の親ロシア派代表と併合条約に署名した。これに対して、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に対し迅速な加盟を可能にする手続きを正式に申請すると表明。米英などが追加制裁を発表したほか、主要7カ国(G7)外相はロシアを非難する共同声明を発表した。停戦休止のきっかけが無くなり、ウクライナ戦争の長期化が決定的となり、ウクライナ軍による反撃が始まった。一方で、22年時点でウクライナ復興資金が7500億ドル以上と表明しその援助を西欧諸国に要望している。
 また、米国・ロシアとも、旧式の軍備品の在庫一掃セールが進み、最新兵器の販売で米国一人勝ちとなっている。『欧州の兵器輸入急増、米の輸出シェア4割に拡大=シンクタンク』(3月13日ロイター)朝鮮戦争・ベトナム戦争・アフガニスタン介入のような米国軍の犠牲者を出すこともなく、石油を含め資源を持つ米国有利の構図となっている。軍需産業全盛期の様相となっている。NATO 諸国も同様である。ウクライナ戦争は、結局ロシア対米国および西欧諸国の対立構造となっており、中東戦争と同様のウクライナ国民を使った『代理戦争』となってしまった。
 さらに全人代後の中国の出方を待っていが以下の記事のように軍事面は別として欧米諸国との対立を共同で進める表明がなされた。
 『中ロ首脳会談、プーチン氏「春の公式訪問期待」 軍事協力も深化』(22年12月30日ロイター)『中ロ首脳会談、軍事協力にプーチン氏言及 習氏は和平へ客観姿勢』(22年12月30日ロイター)習国家主席は2分程度で応じ、「困難な」世界情勢を踏まえ、中国はロシアとの戦略的協力を拡大する用意があると語った。ウクライナ和平交渉への道のりは平坦ではないとし、中国は「客観かつ公正な姿勢」を維持すると述べた。その上で、両国は国際問題で緊密に調整・協力すべきとし、ロシアがウクライナを巡る交渉に関わる意思を強調したと指摘。イデオロギー的に西側と対立する点ではロシアとの親和性を示し、「制裁と干渉は失敗する運命にある」とプーチン大統領に語った。その上で、「覇権やパワーポリティクスに反対するロシアや世界の先進勢力と中国は協力し、両国の主権、安全保障、発展と国際正義を断固として守る用意がある」と述べた。
 22年12月30日の記事の意味は大きく、欧米対中ロの対立構造が明確となり軍事面の表明はなかったが、ウクライナに欧米が協力するのであれば、中国が協力するのは当然の結論となる。ロシアの通信設備・兵力・ロケット等の武器の枯渇が報道されているが、中国・北朝鮮・イラン等の何らかの援助が現実のものとなればその予想は逆転することになる。『代理戦争(ウクライナ)』の長期化・泥沼化は避けられない。また、22年12月30日を境に、世界の政治経済の大きな変動(転換)を示している可能性がある。
 制裁関連で、『ロシア産ディーゼル油に100ドルの上限価格、EUが支持-関係者』(2023年2月4日 2:44ブルームバーグ)、さらに2月6日『米、週内にもロシア製アルミニウムに200%関税導入=報道』(2月6日ロイター、2月25日ブルーンバーグ)『EU、ロシアなど4地域を租税回避地ブラックリストに追加=草案』(2月10日ロイター)とある。『英、ロシアに追加制裁 戦場で使用の全品目を輸出禁止に』(2月24日ロイター)
 欧米によるロシア経済制裁の行方は、『インド、ロシアとのルピー建て貿易に改めて期待感=商工省高官』(1月16日ロイター)ロシア・インドとの関係記事を注目したい。『バルト3国、昨年のロシア産LPG輸入が大幅拡大=トレーダー』(1月26日ロイター)のようにあまり効果がないように思える。
 
≪対台湾≫
 台湾問題で、バイデン大統領政権は、武器販売を進めながらも、『1つの中国』を表明している。2枚舌外交である。一方で口先介入を進め中国と対立、台湾の半導体技術の取り合いとなっている。米中の軍事的直接衝突を避ける目的もあり、台湾企業の米国・日本を含めた同盟国への技術移転を待つ時間稼ぎのようである。IT /AI を含めた主導権争いとなっている。日米首脳会談で日本の軍事的強化を表明された意味が理解できる。
 ≪対中戦略≫
 これまで、関税を基軸とした規制を進めてきたが、ウクライナ戦争を機にロシアの中国への急接近が見られ半導体問題を根拠とした対中戦略が進められている。最先端技術による武器開発阻止の意味があるのだろう。
 『中国、重要な技術分野で欧米を「圧倒的にリード」=調査』(3月2日ロイター)『シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は、防衛や宇宙、バイオテクノロジーなどの重要な新興技術44分野中37分野で中国が欧米諸国を「圧倒的にリード」していると指摘した。ASPIによると、複数分野において世界のトップ10の研究機関全てが中国に拠点を置いているという。米国は、高性能計算や量子コンピューター、小型衛星、ワクチンなどの研究で世界をリードしているが、他の多くの分野では2位となっている。ASPIは、中国が政府プログラム下で「影響が大きい分野での研究で圧倒的なリード」を確立していると指摘。欧米諸国は安全なサプライチェーン(供給網)の確保に向け協力し、戦略的技術の迅速な発展を目指すべきと提言している。
 『米政府、中国YMTCなど30社超を輸出禁止リストに』(22年12月15日 1:19日経・ロイター)米国は22年10月、スーパーコンピューターなど先端技術の対中取引を幅広く制限する措置を発表した。米政府はすでに華為技術(ファーウェイ)や半導体受託生産の中芯国際集成電路製造(SMIC)への輸出を厳しく取り締まっている。対象企業を広範囲にして、中国の半導体産業への効果を強める。
 半導体そのものだけでなく製造装置や設計ソフト、人材も含めて規制する。特定の企業でなく中国全体に網をかけた。中国商務省は22年12月12日夜の公表文で「典型的な貿易保護主義のやり方」だと批判した。『中国、米国をWTO提訴 半導体輸出規制巡り=環球時報』(22年12月13日ロイター)中国は世界貿易機関(WTO)に米国の先端半導体などを巡る対中輸出規制が不当だと提訴したばかりで、半導体関連の米中対立が激しさを増している。
 半導体製造会社、日本・オランダの企業に対する要求があり、『米の対中半導体規制、同盟国が厳しい措置講じない恐れ=業界団体』(2月1日ロイター)米中対立の記事が見られた。さらに、『米国防権限法が成立 台湾軍事支援に5年で1.3兆円』(22年12月24日日経)のように台湾問題を基軸に同盟国の日本に軍備拡大を迫った可能性がある。『中国、米の台湾安保支援強化に「断固反対」 国防権限法成立で』 (22年12月24日ロイター)
 『米、日英と重要鉱物巡る貿易協定模索 中国の影響力抑制へ=報道』(2月10日ロイター)米政権が日本および英国と重要な鉱物資源に的を絞った貿易協定の締結を模索していると、ブルームバーグが2月10日、関係筋の情報として報じた。重要鉱物を巡る中国の影響力抑制を狙う動きとみられる。『米中ハイテク戦争、劣勢の米国 スティーブン・ローチ氏』米エール大学シニアフェロー(8日日経)『バイデン政権、米企業による中国技術への投資抑制導入か=NYT』(2月9日ロイター)『米政府、中国の軍事航空宇宙プログラムに関係する6社に制裁』(2月11日6:44 JSTブルームバーグ)軍事活動の中でも特に飛行船や気球など航空宇宙関連プログラムに関連している企業が対象。の報道が続く。
 中国軍事面で、『中国の新空母「福建」、間もなく初の航行試験実施か 副艦長』(23年1月4日CNN)「福建は中国がこれまで建造した軍艦の中で最大級。同艦を作戦に編入できるかどうかは中国海軍の方針にとって重要な要素となる。22年6月17日に進水式を行い、現在は上海にある造船所で建造の最終段階に入っている。」中国の軍備拡張が進んでいる。
 2月2日、『米国務長官、訪中延期を発表 気球飛来は「主権侵害」』(2023年2月4日 5:50 日経)『米国防総省、中国の偵察気球は「米本土中央を飛行中」』(日経)中国外務省は2月3日、米上空の気球を中国のものと認め「民間の気象研究用の飛行船が航路を外れた」と主張した。ホームページにコメントを掲載し「西風の影響を受け、不可抗力で米国に迷い込んだ」とした。
 一方、米国防総省は2月2日、西部モンタナ州で気球の飛行を確認したと発表した。同州には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を運用するマルムストロム米空軍基地があり、軍事施設の偵察を狙った可能性がある。その後、『米中、高まる偶発リスク 米軍が中国偵察気球を撃墜』(2月5日日経)のように『2月4日米国は中国の偵察気球を撃墜したと発表した。中国外務省は「強烈な不満と抗議」を表明』し、対抗措置を示唆。米中対立の疑念が広がる。2月6日以降、『米中関係、気球撃墜で弱まらずとバイデン氏 「正しいこと行った」』(2月6日ロイター)『米国が撃墜の飛行船、中国の所有物=中国外務省』(7日ロイター)と表面的には中国の気球であることを認め、あくまでも気象観測として対立を終息させる方向となった。
 米国本土に関する報道は初めてである。過激な反応は、『米国、アラスカ上空で未確認の飛行物体を撃墜-カービー氏』(2月11日4:44 JSTブルームバーグ)となった。『米、中国拠点5社などに制裁 ロシア軍使用のイラン無人機巡り』(3月9日ロイター)米中の直接対決は避けているようだ。『米中関係は負のスパイラル、相次ぐ非難の応酬で衝突懸念高まる』(3月10日ブルームバーグ)の観測記事が出ている。
 ≪インフレ対策と利上げ≫
 ECB・英国・米国等の欧米諸国の中央銀行の追加利上げ実施があり、さらなる追加利上げに対する発言が報道されている。一方、インフレ対策としての利上げによる実体経済の影響が指数に表れ始め、各国国民の生活が脅かされている。企業への影響はこれからで、収益確保の価格転嫁による値上げが続いている。現状、22年9月期までの企業収益は今の段階ではよいようだ。さらに23年2月3日の米国失業率の発表でさほど影響が数字に出ていない。サプライチェーンの亀裂、コロナ対応・ウクライナ戦争を起因とするエネルギー・食料品等の生活基盤のインフレは放置されたままで収まりそうにない。譬えウクライナ戦争が休戦・停戦となっても、エネルギー・食料問題がすぐに解消することは考えられず、インフレおよび食糧危機は長期化する。米国・欧州の世界のリーダーシップを発揮するという意味合いがピント外れとなっている。『米政策金利6%に上昇すれば新興国市場に打撃=市場関係者』(3月9日ロイター)の記事もある。
 インフレ対策として利上げしかないとの幻想が見られる。中央銀行の物価対応という使命・役割はそこにある。しかし、金利にのみ頼ることで、経済に悪影響を及ぼすことは周知の事実である。日本ではバブル退治として利上げを決行、バブル崩壊後、銀行(北海道拓殖銀行・長期信用銀行等)・証券(山一証券)の倒産と再編成並びに数十年に及ぶデフレ発生の経験がある。通常利上げによる影響が表れるにはタイムラグがあり、今後3~6か月以上の結果を見なければわからない。さらに利上げという特効薬は即効性がない。この点が財政と異なっている。大型倒産がないことの安心感が広がっており、現状賃金上昇と価格転嫁による収益確保がかろうじて機能している。その恩恵で欧米各国の失業率が低い。金融・財政担当者は、経済が失速して不況にならない程度(多少の企業倒産・失業者の増加はやむなしの発言が散見される。)の利上げ水準とスピードを探っている状況と思われる。欧米各国の国家財政の担当者は原資の制約があり、プライマリーバランスの呪縛(欧米式財政論)があり、財政・貿易等のバランス上、財政投資という手法が容易に使えず、すべての対応が遅れている。不況という現実に接していないこともある。
 また、時の政権で選出された中央銀行の責任者は、政治に口出しできない現実がある。独立性が担保されているとはいっても、議会における説明責任であって形式的なものとなっている。トランプ政権以降、米中・米ロの政治的な対立と経済制裁に頼ったがため、物価上昇を引き起こし、その根本問題の解消に対する発言もなく、インフレの問題と景気悪化をさらに拡大させている。これらの問題を修正するには、政府および金融担当者の判断を待つのではなく、各国国民の貧富格差・生活苦による反発が必要なのかもしれない。現実に、欧米で賃上げ要求のストライキが始まっている。
 今回の物価上昇は、モノ不足から生じたのではなく、あらゆる商品の原材料半導体等の高騰が原因である。これまで、欧米を基準(世界秩序として?)としたエネルギー関連・半導体・衣料・食料等のサプライチェーンとして組み込んだ対象国(中国・ロシア・イラン等)への経済制裁・規制から始まったものである。政治的な要素が大きい。
 今後、シンギュラーポイントを超え、高価格商品の供給品(在庫)があふれ、需要サイドの消費の落ち込みから企業倒産・失業者増となり、連鎖的なスタグフレーションとなる可能性が高い。あらゆるインフレの原因が解消されず、長期化が予想される。企業倒産・失業問題が現実味を帯びるのはこれからだ。日本では中小企業の倒産が報道されている。
 ここにきて、3月10日、米金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行の破綻があった。利上げによる脆弱性が原因とされているが、その影響が懸念される。米国金融株の下落が見られた。
 ≪為替介入と利上げ効果としての通貨高政策≫
 為替操作目的の利上げ発言が散見される。米国一人勝ちによるドル高の影響で日本・欧州・英国・新興国では、通貨安となっている。インフレ対策として利上げが報じられており、米国との利上げ競争となってきた。通貨安の防衛策の意味合いが強い。通貨防衛はインフレ圧力削減に必要であるが、米国による為替操作国に指名されることを避けている。22年9月以降何度か為替介入を行ったようだが機能せず円安が進んだ。22年10月21日、政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。151円台から145円台に押し下げたが147円台で取引は終了。現在、130円台となっている。エコノミストは外貨準備高を材料にその効果を否定的に評価していた。
 しかし過去の為替介入水準での介入は最終的に成功しており、その後為替利益を出している。しかし、目先の問題として、通貨安はインフレの原因となり、最終的に国民が犠牲者となる。各国政府の国民に対する対応が問われている。新たな産業創出でない限り、国民の税金の負担を増やすことになる。米国を除く日本・欧州・英国・中国の通貨安の影響が出ており、インフレ対策の一つとして協調介入の可能性が高まりつつある。中国は通貨防衛を始めたようだ。一方、欧州英国は利上げを材料としているが、経済の悪化が現実のものとなり始め、インフレ対策とした利上げによる通貨防衛に限界が見えている。ポンド・ユーロ安が続いている。米国の22年中に4度の0.75%利上げがあり、その幅およびスピードが早急となっている。発展途上国に対するドル建て債務への配慮もない。資金を米国に集める基本政策の限界が始まっている。さらに、世界中の金余りにより発生した仮想通貨という、中央銀行の政策誘導機能の影響が及ばない通貨決済機能のある金融商品が流通している。
 ≪イデオロギー≫
 政治問題として、大義名分の『民主主義対権威主義』の議論が活発となっている。いつの間にか歴史背景(政治史・哲学・宗教)を基本とした『自由・平等・博愛』の国家・国民として相互不干渉・権利・義務・および制約の基本理念を忘れ、『人権侵害』を標榜する『民主主義』を唱え、国民目線・生活を無視・犠牲とした政治・国家体制の『イデオロギー』の対立となってしまった。一方、背景となる欧米諸国を基準とした『資本主義』の問題点・欠陥が露見している。基本的に『共産主義』対『資本主義』の『イデオロギー』の対立で始まったことであり、共産主義国であったソ連は崩壊、その後ペレストロイカと称して資本主義の導入でプーチン政権となった。中国は共産党を主軸としながらも鄧小平以降資本主義の導入で今に至っている。選挙を通じて議会が成り立っており、すべて『民主主義の一形態』にすぎない。この歴史的な背景を忘れ民主主義という言葉の遊びとなっている。『表現の自由』があるか制限されるかの違いにすぎない。法哲学的には『自由という権利』の裏返しの『他人に迷惑をかけてはいけないという義務』がある。何をやってもいいということはありえず、これを制限するための『法律』がある。その上で政治は、一般国民の生活が裕福かどうかの判断で決まる。『自由を脅かすのは弾か票か 米欧、民主主義にもろさ』(22年12月29日日経)の記事が出た。2月7日バイデン米大統領の一般教書演説で、米国の民主主義は南北戦争以来最大の脅威に直面しているとした上で「われわれの民主主義は傷ついたものの、屈しておらず、壊れていない」と強調した。これに対し、共和党は『米共和、バイデン氏の結束呼びかけに拒否反応 一般教書演説巡り』(2月7日ロイター)「バイデン政権は米国民が毎日直面する厳しい現実よりも、『woke(意識高い系)』の幻想に関心があるようだ」と非難した。また、『バイデン氏「対中競争勝利へ結束を」一般教書演説』(2月8日日経)これに対して『中国式現代化は西洋化にあらず、共産党の指導堅持が中核と習総書記』(2月8日ブルームバーグ)「習氏は党中央政治局常務委員や中央委員、地方政府首脳、閣僚らに向けた演説で、国家の発展全体ではイノベーションを重視すべきで、社会の公平性をより効果的に維持しながら、資本主義よりも高度な効率性を達成する必要があると語った。資本主義よりも効率的で社会正義をより適切に守る現代化の道を生み出すよう中国は取り組まなければならないと述べた。」「民主主義」とは表現せず、「資本主義」に対立する「社会主義(共産主義)」の表現を使っている。あくまでも国民を主体とした社会主義としている。
 ≪北朝鮮≫
 バイデン政権が見過ごしてきた極東地区の北朝鮮の核兵器を含めロケット・ミサイル発射が22年9月25日以降活発となり、ミサイル技術の高度化が確認され、既存の防衛能力(レーダー・衛星による追視監視体制・迎撃態勢)での対応に疑問符がついている。22年11月18日米国本土を射程に攻撃できるICBM(大陸間弾道弾)の実験に成功した模様、地政学上の円安材料となっている。
 ≪制裁と多極構造≫
 現状、北極圏の政治的優位性もあり、資源大国ロシアの反乱(オイルショックに類似)が起きており、国際規律の再構築への挑戦が始まっているとみることができる。米国主導による政治・経済体制は、米国および先進国(G7)対中国・ロシア諸国の対立構造となり、2極構造となりつつある。インド・中東諸国・パラオ島の南西諸島は中立の立場をとっている。西側諸国(欧米先進国)軍事力並びにサプライチェーンの世界覇権問題に絡めて、現体制の維持を目的に、『防衛』と称してこれを防ぐための経済制裁の嵐(応酬)が吹いている。バランスある落としどころを考慮して、サミュエルソンが提唱した政治と経済を複合的に考える議論が必要である。
 ≪米国≫
 22年11月8日、米国は上院・下院の中間選挙を迎えた。民主党の下院は過半数割れとなり、今後の政権運用が難しくなった。さらに2021年以降、ドル高を標榜した結果、インフレ問題と歩調を合わせるように発展途上国の債務問題が懸念され始めている。22年11月16日、インドネシアバリ島でのG20 で議題に上ったものの深く審議されなかった。欧米中心の枠組みを壊すまでには至らなかった。トランプ政権時の政策をさらに推し進めた、自国第一主義を推し進めた結果のようだ。軍事面・経済面で圧倒的優位さが無くなったことが確認され、ドルインデックスの修正が入り始めた。IMM 通貨先物でドルが売り越しに転じたとの報道(22年11月19日ロイター)もある。また、『ドルの兵器化、米国に裏目に出る恐れ-各国で覇権脱却の動き』(22年12月23日ブルーンバーグ)の観測記事があった。基軸通貨としてのドルの優位性が薄れているようだ。ドル安要因となる。
 米国の場合、最近の現象は過去と違い、賃金アップが伴ったコストアップ・インフレとなっているが、食料品・家屋等の消費財の価格が、中間層以下の一般大衆の手の届く水準を超えている。収入の少ない大衆は、食費の切りつめ、医療費の削減等の対応をしているとの報道がある。結果的に、貧富の格差が広がっている。
 また、米国の経済問題となる企業倒産・失業者が表面上出ていないことが幸いしている。しかし、米国内では銃刀法規制が進まず治安問題が報道されており、人種差別・宗教問題・人工妊娠中絶問題・南米諸国からの移民問題等、根本的な米国内の分断状況に変わりはない。英国からの独立戦争・南北戦争(英国・仏の軍事介入)等、植民地時代を経て、アメリカンドリームを求めて世界中から集まった移民で成り立った国であることもあり、第二次世界大戦時のように一つのアイデンティ(USA)でまとまることができるかが試されている。さらにほぼ200年で築き上げた英国・米国を基準とした株式資本主義のあり方が問われている。また、22年11月8日に行われた米国中間選挙は、民主党が上院は過半数を維持、下院は共和党過半数となり、ねじれ現象の結果となった。今後の政権運営が困難となる可能性が高い。市場予想とは違い民主党の善戦結果となった。一方で、米国の2大政党の意義が問われ始めたようだ。世代交代の流れが始まっている。米国内の国民意識の亀裂分断は収まっていない。
 『米戦略石油備蓄の補充先送りへ、政権が2月購入分の提案拒否-関係者』(1月7日ブルーンバーグ)「受け取った複数の提案について、提示価格が高過ぎるか、あるいは必要な仕様を満たさないと判断していずれも拒否したという。エネルギー省は昨年12月、SPR補充計画の一環として、まず23年2月に300万バレルの原油を購入すると発表していた。バイデン政権は昨年、高騰するガソリン価格の抑制を目指し、SPRから計1億8000万バレルを放出した。」何らかの意図があるようだ。原油価格の行方に影響する。
 『米国、追加支援で防衛産業との17.5億ドル規模の契約』(2月3日ロイター)米国防総省のライダー報道官が記者団に語ったところによれば、新たな21億ドル規模のパッケージには米国が在庫に保有する兵器を4億2500万ドル相当、防衛産業との契約により提供される兵器が17億5000万ドル規模に上り、高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」の弾薬なども含まれる。米国防衛産業の保護の動きか。また、関連企業の需要底上げの意味がある。
 また2月7日、バイデン米大統領の一般教書演説があり、議会運営の困難さが注目された。さらに対中政策が表明された。『バイデン米大統領が一般教書演説、共和党との協力に意欲』(2月7日ロイター)バイデン氏は1200万人の新規雇用が創出され、新型コロナはもはや市民生活の妨げになっていないと述べた。米国の民主主義は南北戦争以来最大の脅威に直面しているとした上で「われわれの民主主義は傷ついたものの、屈しておらず、壊れていない」と強調した。共和党からは、『米共和、バイデン氏の結束呼びかけに拒否反応 一般教書演説巡り』(2月7日ロイター)「バイデン政権は米国民が毎日直面する厳しい現実よりも、『woke(意識高い系)』の幻想に関心があるようだ」と非難した。また、『バイデン氏「対中競争勝利へ結束を」 一般教書演説』(2月8日日経)これに対して『中国式現代化は西洋化にあらず、共産党の指導堅持が中核と習総書記』(2月8日ブルームバーグ)「習氏は党中央政治局常務委員や中央委員、地方政府首脳、閣僚らに向けた演説で、国家の発展全体ではイノベーションを重視すべきで、社会の公平性をより効果的に維持しながら、資本主義よりも高度な効率性を達成する必要があると語った。資本主義よりも効率的で社会正義をより適切に守る現代化の道を生み出すよう中国は取り組まなければならないと述べた。」
 国内経済の認識について、『米経済、今年と来年の景気後退はない=バイデン大統領』(2月8日ロイター)、「エコノミストは米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向けた利上げを進める中、景気後退の可能性を警告している。」しかし、『米国人の半数、1年前より経済的に苦しいと回答-09年以来の高い割合』(2月9日ブルームバーグ)『年10万ドルの給料、NYで最も大きく目減り-税金と生活費の高さ響く』(3月17日ブルームバーグ)の現実がある。一般国民との認識のずれが見られる。
 ≪その他≫
 地球・人類生存に関わる、気候変動による自然災害及び地震災害の報道が続く。COP27では答えが出せなかった。食糧危機はこれからである。米国・中国・ロシア等の『覇権』問題に関連して世界のリーダーシップの中身が問われている。そのあおりは、エネルギー・食料等のインフレ問題となり、食糧危機として世界各国の国民〈80億人〉に及んでいる。『ウクライナ穀物収穫は今年も減少へ、4950万トンの予想=高官』(2月1日ロイター)食料に関するインフレ問題が深刻化している。
 必要なのは、政治体制の如何にかかわらず世界のバランス感覚である。国民目線の政治ではなくなっている。為替・株式・債券・各種商品を含め金融市場・金融制度・国際会計基準・金融財政理論の行方に関連する。

≪先週の相場展開≫

 さて、先週の相場展開は、
 3月10日『米カリフォルニア州当局、シリコンバレー銀行を閉鎖=FDIC』(10日ロイター)シルバーゲート・キャピタルとシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻に続き、3月12日『シグネチャー・バンクを事業停止、NY州当局-SVB破綻の余波』(3月12日ブルームバーグ)となった。『シグネチャーは、商用仮想通貨顧客が年中無休でいつでもリアルタイムでドル建て決済を行える決済ネットワーク、 シグネットを運営していた。ライバルのシルバーゲートが運営していたネットワーク、SENが3月初めに閉鎖された後、シグネットは多くの仮想通貨関連顧客にとって交換業者やベンダーへの迅速な支払いなどを行う唯一の手段となっていた。』12日、『米連邦準備制度と財務省、連邦預金保険公社(FDIC)は、SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受け、預金者保護に動き、銀行システムへの信頼を強化する新たな金融の安全措置を公表』の動きがあった。一方、『シリコンバレー銀破綻、超緩和局面終了で早くも金融システムにほころびか』(3月12日ロイター)『米シリコンバレー銀破綻、当局が緊急措置発動もくすぶる懸念』(3月13日ロイター)『米当局のSVB破綻処理、モラルハザードの火種再び』(3月13日ロイター)の観測記事があり、13日シグネチャー・バンクの報道以降、135円台から132円台に急落。
 シリコンバレー銀行・シグネチャー・バンク・米ファースト・リパブリック他米国金融システムへの不安が広がった。『ムーディーズ、米銀見通し「ネガティブ」 SVB破綻でリスク高まる』(3月14日ロイター)『米国の銀行セクターのリスクが高まっているとしているとし、米銀行システムに対する見通しを「ステーブル」から「ネガティブ」に変更した。』、さらに、『シュワブ株が上場来最大の下げ、不安払拭に躍起-顧客資産7兆ドル超』(3月13日ブルームバーグ)とヘッジファンド等の関連企業にも広がった。
 一時、14日、政府、FRB等に金融当局の金融危機沈静化の動きがあり、『米銀行株の売り一服、当局はシリコンバレー銀破綻の経緯調査』(3月14日ロイター)『米ファースト・リパブリック、売却含む選択肢検討=BBG』(3月15日ロイター)『16日米政府の調停で、複数の大手銀行が合計で約300億ドル(約4兆円)を同行に預け入れることで合意した。参加する銀行にはJPモルガン・チェースやシティグループ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、モルガン・スタンレーなどが含まれる。』銀行システムの信頼を守る当局の行動で金融危機は回避できるとの期待から、買い戻しが入った。
 しかし、15日以降、『米国債の流動性低下、高ボラティリティー反映-SVBで見通し不透明』(3月15日ブルームバーグ)『クレジット投資家、銀行債を敬遠-SVB破綻後の波乱で人気から一転』(3月15日ブルームバーグ)と金融機関の問題から債券市場の信頼にまでその余波が広がった。
 さらに、米国だけでなく、欧州の大手クレディ・スイスの株価低落に及び、『クレディ・スイス株が最安値更新、筆頭株主「追加出資不可能」』(3月15日ロイター)『BNP、クレディ・スイス関与スワップで当事者交替停止=BBG』(3月15日ロイター)『米大手銀、クレディSへの直接的エクスポージャーを数カ月間縮小』(3月15日ブルームバーグ)『スイス中銀、クレディ・スイスに異例の対応 株急落で流動性供給表明』(3月15日ロイター)『クレディ・スイス、スイス中銀から最大500億フラン借り入れへ』(3月16日ロイター)『クレディ・スイス、欧米の運用ファンドから資金流出 4.5億ドル超』(3月17日ロイター)と金融不安材料が続く。
 こうした中、ECBは中銀預金金利を0.5ポイント引き上げ3%に設定。『前回会合以降に当局者が示唆し続けた通りで、大半のエコノミスト予想にも一致した。ただ、クレディ・スイス・グループを脅かしている銀行業界の混乱を背景に、今後の金利の軌道を示唆する文言は声明から取り除かれた。ラガルド総裁は記者会見で、将来の金利の軌道を「現時点で決定することは不可能だ」と述べた。ロイター通信によると、クレディ・スイスがスイス国立銀行(中央銀行)の支援を確保したことが分かってようやく、ECBは今回の0.5ポイント利上げを決定した。』(16日ブルームバーグ)
 一方、米億経済指標の悪化が発表され、『米フィラデルフィア連銀業況指数、3月はマイナス23.2 予想値全て下回る』(3月16日ロイター)『米ミシガン大消費者信頼感、3月は4カ月ぶりに低下 予想下回る』(3月17日ロイター)追い打ちをかけるように、
 『米SVBファイナンシャルが破産法申請、資産の買い手模索』(3月17日ロイター)経営破綻した米中堅銀行シリコンバレー銀行の親会社に当たる金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループの破産宣告がなされた。
 一時131円台半ばの取引となった。円ドルは131.840円で取引を終えた。
 政治的要素として、
 西側諸国の金融危機問題を横目で見て、中国の外交政策が報道された。国際社会の西側諸国とは別の『イランとサウジの正常化電撃合意、米の影響力低下鮮明に』(3月10日ロイター)『イラン、ロシアから最新鋭戦闘機購入へ 軍事関係強化』(3月12日ロイター)イランがロシアから最新鋭戦闘機スホイ35を購入する契約で合意『習近平中国国家主席、来週にもロシア訪問=関係筋』(3月13日ロイター)『中ロ関係、「世界安定の主な要因」=ロシア国防相』(3月13日ロイター)『米偵察無人機、ロシア戦闘機と黒海上空で衝突』(3月14日「ロイター)『中国・イラン・ロシア海軍、15─19日にオマーン湾で合同軍事演習』(3月15日ロイター)の動きが活発となった。
 ウクライナ戦争の仲介報道となり、『中国「早期の和平交渉望む」、ウクライナと外相電話会談』(3月16日ロイター)ロシア訪問に関する20日以降の報道が待たれる。
 この動きを牽制するように、『米、中国の仲裁役に向けた動きを懸念 ウクライナで=高官』(3月17日ロイター)『国際刑事裁、ロシア大統領に逮捕状 ウクライナでの戦争犯罪』(3月17日ロイター)
 世界最大の新型コロナウイルス感染国米国(23年03月10日時点で感染者数10380万2702人、死亡者数112万3836人)となっている。ジョンズ・ホプキンス大学は、2023年3月10日にデータの更新を終了しました。
 WTI原油先物は66.515ドル台となり、ドルインデックスは103,8609、円ドルは131.840円で取引を終えた。

今週の予想

今週のドル円予想レンジ:130.00円~135.00円
ピボット分析(日足ベース):130.06円~134.30円

≪統括≫

世界経済は、各国中央銀行の金融緩和・政府の補助金等の政策で企業倒産を食い止め、完全失業者をそれほど出さず、自殺者の急増を防いできた。その中で、コロナによる犠牲者(死亡者)を乗り越え、製造業中心に経済活動が回復してきた。
アメリカの対中国戦略により中国・アジア地区中心のサプライチェーンに亀裂が生じ、物流の根本が揺らいでいる。コロナ対策が起因で生じたインフレ対策処理が終わらない状況で、2022年2月ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。さらに、22年11月16日、欧米諸国がロシアの脅威に共鳴しウクライナを援助する背景が何であるかが報道されている。
『焦点:暗転する北極圏 軍事的優位に立つロシア、追うNATO』(11月16ロイター)
『ロシアにとっては、ヤマル半島の液化天然ガスプラントも含め、北極圏地域には膨大な石油・天然ガス資源が眠っている。ロシアの北方を拠点とする船舶が大西洋に到達するには、「GIUKギャップ」と呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国のあいだの水域を抜けるしかない。ロシアのミサイルや爆撃機が北米に到達する最短の空路は、北極点の上を通過する。NATO加盟国にとって、北大西洋をまたぐ連携を保つ上でGIUKギャップは非常に重要だ。また、油田・ガス田も存在する。ノルウェーは今や欧州最大のガス輸出国だ。スウェーデンとフィンランドが加盟すれば、北極圏諸国8カ国のうち7カ国がNATO加盟国ということになる。米バージニア州ノーフォークに本拠を置くNATO統合軍司令部の司令官を務めたアンドリュー・ルイス氏は、ロイターの取材に対し、現在では軍民双方の利用者をつなぐ通信ケーブル及び全地球測位システム(GPS)を含む衛星システムもリスクにさらされている、と語った。』(ロイター)
北極圏の地下資源および軍事的な脅威、超高速ミサイル・潜水艦・核兵器搭載可能な等の配備態勢と到達距離の短さ等ロシアに対する防衛の意識が高まっている。欧米各国の防衛費に関する記事が多くなった背景がここにある。さらに北極圏での中国が参加した共同軍事演習もありその脅威は、ロシア・中国に対する経済制裁および各種の規制強化に結び付く。
さらに、ウクライナが
『“プーチンの戦争”の隠された狙い?ウクライナは“兵器先進国”だった。【報道1930】(12月14日TBS)の報道に注目する必要がある。
『ウクルオボロンプロムという企業が「航続距離1000km、弾頭重量75㎏のドローンの開発を完了しつつある」』
ウクルオボロンプロムとは、ウクライナの国有軍事企業グループ。「もともとあった軍事企業グループを国家戦略的に2010年に統合。それまで国有企業や民間企業がバラバラにやっていて赤字だった。それを集約して国家目標を立てて企業体として黒字転換を目指した。137社で構成され従業員は約6万7000人、売上高は国家機密だが約1400億円(2020年)とみられる。
ウクルオボロンプロムを構成する137の企業それぞれに得意分野があり、製造拠点はウクライナ各地に点在している。例えば造船はミコライウ。船舶の設計・開発はヘルソン。ザポリージャではジェットエンジン。ハルキウ周辺にはミサイル、防空システム、戦車、装甲車、航空機の製造拠点が集中している。そして、キーウにはウクルオポロンプロムの本社があり、航空機の設計をする会社もある。契約先はアメリカの航空会社、カナダの電子機器企業など世界各国に及び、半導体はアメリカや韓国から、精密機械は日本、ドイツから輸入している。ウクルオポロンプロムは兵器なら何でも作れる大企業だ。思えば撃沈されたロシアの軍艦「モスクワ」も、中国初の空母「遼寧」も作ったのはウクライナだ。航空機、戦艦、ジェットエンジン、ロケットエンジン全部を作っています。(中略)工場の中を見たんですけど精密機械は殆ど、ドイツと日本のものでした。輸出先としては中国これが一番大きい。それからインド、タイにも戦車を入れていますし、ミャンマーも艦船の輸入をしている。
「何故この軍事産業の拠点ばかりロシアは欲しがるかというと、かつてはソ連という一つの国の中でいろいろな産業を分業化していた。それが15の共和国が独立してしまって、ロシアからすると本来自分たちの国の中で持っていた軍事産業が持って行かれちゃったっていう感じ。だからそれを取り戻すというのが今回の軍事作戦の隠された狙いの一つだと思います」
実はソ連時代、航空機やロケットなどの生産において設計はロシアが担当したが、例えばロケットの製造はカザフスタン。潜水艦の部品の製造はモルドバ、航空機の部品はアゼルバイジャンなど共和国が分担していた。その中にあってジェットエンジン、戦艦など兵器の殆どを製造していたのがウクライナだったのだ。“自国の兵器製造部門”を取り戻すことが、プーチン氏の今回のウクライナ侵攻の目的の一つだとしたら、逆にそれがロシア産兵器の弱さを世界に見せつけることになったのは皮肉な結果である。』(BS-TBS 『報道1930』 12月12日放送より)
ウクライナが、旧ソ連・ロシア規格の武器製造工場であった事実から、ウクライナを取り込むことで欧米諸国にとって、対立する旧ソ連圏への牽制および武器供与を止める意義がある。中国への牽制ともなる。
『終わりなき新冷戦』の始まりといえる。ウクライナは別の見方をすれば、政治的覇権争いの『代理戦争』の意味合いもあるが、軍事兵器製造開発の拠点争奪戦とも考えられる。そのあおりは、インフレとして世界各国の国民に及んでいる。欧米各国さらに発展途上国の国民の生活を無視した政策が行われている。
ウクライナ侵攻の対応策としてロシアへの金融を含めた経済制裁がはじまった。『民主主義・人権擁護』を大義名分として、EC・NATOを巻き込む形でウクライナへの武器供与を進め戦争の長期化が現実のものとなった。米国政権は、アフガニスタン撤退による失策非難を避ける意図もあり、ウクライナ戦争介入に際して、米国・NATO 連合は、同盟国ではないとして、直接関与は避けている。
しかし、22年11月16日初めてNATO加盟国ポーランドで2人の犠牲者が出た。ウクライナ戦争NATO参戦かと、一時騒然となったが、ウクライナ側との報道もあり原因究明が先決として冷静に対応している。さらに『ウクライナ軍、ロシア・クルスク州の発電所を攻撃=地元知事』(22年11月30日ロイター)の報道があったが無視されている。ただし、ウクライナの能力以上に躍らせたため、その終息ないし宥めるのは困難であろう。イラクのフセイン大統領を思い出させる。ついに、『ウクライナ軍、ロシア・クルスク州の発電所を攻撃=地元知事』(22年11月30日ロイター)の報道があったが無視された。さらに、このような状況下、22年12月5日、『ロシア空軍2基地にドローン攻撃、ウクライナもロ軍再攻撃で各地に被害』(22年12月6日ロイター)、『ウクライナ、ロシアをまた無人機攻撃 石油タンクで火災』(ロイター)とロシア本土への攻撃が報じられている。その報復として、ロシアのウクライナへの電気・水のインフラ攻撃が激化している。
北極圏のロシアの脅威に始まる欧米のウクライナに対する武器供与を中心とする援助ではあったが、結果として資源関連のインフレを招き、さらに食糧危機にまで及んでいる。さらに、中国・ロシアを接近させることになり、米国対ロシア・中国の対立構造となってしまった。米国の覇権に対する挑戦そしてその対応としての意味合いが強い。さらに、『サウジと中国、戦略協定に署名 習主席「アラブとの新時代」到来』(22年12月8日ロイター)『中国アラブ関係「新局面」、元建て取引推進で米揺さぶり 習氏)(22年12月9日ロイター)『米欧の世界支配への欲望、紛争リスク高める=プーチン氏』(22年12月9日ロイター)とあるように、基軸通貨・中東諸国への米国の影響力低下等ドル安材料となっている。『インド、ロシアとのルピー建て貿易に改めて期待感=商工省高官』(1月16日ロイター)の記事は基軸通貨のドル安要因となった。
全人代後の中国の出方を待っていが以下の記事のように軍事面は別として欧米諸国との対立を共同で進める表明がなされた。
『中ロ首脳会談、プーチン氏「春の公式訪問期待」 軍事協力も深化』(22年12月30日ロイター)『中ロ首脳会談、軍事協力にプーチン氏言及 習氏は和平へ客観姿勢』(12月30日ロイター)習国家主席は2分程度で応じ、「困難な」世界情勢を踏まえ、中国はロシアとの戦略的協力を拡大する用意があると語った。ウクライナ和平交渉への道のりは平坦ではないとし、中国は「客観かつ公正な姿勢」を維持すると述べた。その上で、両国は国際問題で緊密に調整・協力すべきとし、ロシアがウクライナを巡る交渉に関わる意思を強調したと指摘。イデオロギー的に西側と対立する点ではロシアとの親和性を示し、「制裁と干渉は失敗する運命にある」とプーチン大統領に語った。その上で、「覇権やパワーポリティクスに反対するロシアや世界の先進勢力と中国は協力し、両国の主権、安全保障、発展と国際正義を断固として守る用意がある」と述べた。
この記事の意味は大きく、欧米対中ロの対立構造が明確となり軍事面の表明はなかったが、ウクライナに欧米が協力するのであれば、中国が協力するのは当然の結論となる。ロシアの通信設備・兵力・ロケット等の武器の枯渇が報道されているが、中国・北朝鮮・イラン等の何らかの援助が現実のものとなればその予想は逆転することになる。『代理戦争(ウクライナ)』の長期化・泥沼化は避けられない。
これまで、経済の問題と政治的な軍事問題を切り離して考えればよかったがそうはいかないのが現実である。第二次大戦後の政治・経済の国際ルールに亀裂が生じている。政治学でいう、核・軍事の『バランス・オブ・パワー』で云う米ソの2極構造が壊れ、ソ連崩壊後、米国一極の構造との幻想があった。今では経済力をつけた中国・インド・中東諸国を含める多極構造の世界となっている。
米国に集中するコンテナの問題はやや終息しつつあるが、燃料費高騰で海運賃は高止まりのまま。さらに人件費も高止まりしている。当初、ロシアに対する金融制裁を基軸に、エネルギー資源(石炭・石油・天然ガス)・食料資源・鉄鋼資源に限定した貿易制裁を起草、ロシア経済の疲弊による政権維持が困難になるとの構想・戦略で進めてきた。
しかし、ロシアが世界に供給する資源がエネルギー資源・食料・半導体生産資源・肥料・希少金属等多義に渡っていることが後になって理解された。そもそも、中国を含め世界の物資のサプライチェーンの枠組みは先進国の欧米中心に組み立てられてきたものであった。中国への関税政策、ロシアへの制裁開始以降エネルギー以外に各種商品価格の高騰を呼びインフレが世界に広がってしまった。さらに食糧危機問題が発生し、最貧国の政治状況に変化がみられる。また経済救済の枠組みも再考を余儀なくされているが進展はない。コロナ対策・インフレ対策で財政的な余力は限られている。他国の面倒を見る余裕はなくなっている。
各国の金利引き上げ競争が始まり、国内の経済維持に警鐘がなり始めており、世界経済のスタグフレーションの状況となりつつある。
世界世論はロシアへの非難に終始している。ロシア・ウクライナとの休戦・停戦交渉は暗礁に乗り上げている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、民主主義の基礎となる自国民の安全・安心を確保するという本筋(米国南北戦争後のリンカーン)を忘れて、為政者としてはやってはいけない、自国民の犠牲者が増えていることを無視する形で、西側諸国のマスコミへのお涙頂戴なのか情報提供としてSNS等の手段を駆使、さらに休戦に向けた努力もなく、欧米各国政府への武器供与を呼び掛けているのが現状である。ウクライナをどうしても勝たせたい理由が米国の覇権維持にあるようだ。
さらに、戦争拡大を煽るように、22年4月12日以降、バイデン米政権はウクライナへの約7億5000万ドル(約940億円)を始めとして追加支援を繰り返し、相当の軍事支援を進め、武器や装備品を供与している。1月19日時点で、『米国がロシアの侵攻開始以降に発表したウクライナ向け軍事支援は274億ドル強に達した。』(ロイター)ようだ。ウクライナへの支援をさらに強化する姿勢を強調している。
しかし、中間選挙で下院の過半数を共和党に握られ、これまでの政策が維持できるか注意が必要だ。イラン・イラク戦争時、米国がイラクへの大量の武器援助を行ったことに酷似している。その後イラクでは残された武器を利用したフセイン政権が樹立され中東戦争へとつながる。ウクライナの現状に酷似している。欧米諸国が最新兵器であっても、人殺しの道具を供与していることに変わりはない。
さらに、NATOとの結束を進め、G7を巻き込むことで世界のリーダーシップを強調している。しかし、戦後処理に係る費用(7500憶ドル)はどこから調達するかは不明である。ウクライナにその能力はない。戦後処理費用をロシアに押し付けようとしている。
戦争当事者のウクライナ指導者の先導的なパフォーマンスに迎合し、他人事のように、本当の犠牲者であるウクライナ国民の安全・安心の議論はない。今回、ロシアによる首都圏攻撃でインフラである、水道電気の施設が機能不全となったようだ。冬を迎え国民の生活に苦悩を強いることになる。さらに主要の穀倉地帯がロケット・ドローンによる攻撃によるその破片処理が必要で今後の穀物生産に支障が出る可能性がある。戦後処理に10年かかるとの報道が現実のものとなっている。穀物ができなければウクライナの主要収入がなくなる。さらにこの影響で食糧危機・および半導体生産の原料にも問題が生じ、小麦の依存度の高い東南アジア他の地域で起きる可能性が高くなる。
一般国民は、健康で安心・安全で生活できれば良く、映画・音楽・演劇・文化に触れあう環境を望んでいる。そもそも、現ウクライナ大統領が、戦争前にウクライナの65歳以下の男子の国外脱出を禁止、その家族が国内に残る仕組みを作った事実を忘れている。さらに、首都キーフ周辺に日本も含めた欧米の大使館を存続させている。ある意味での戦略的盾となっている。ロシアが本格的に首都攻撃できない理由がそこにある。大義名分は何であれ、一般国民は戦争(殺し合い)は望んでいない。報道のようなアイデンティティの問題ではない。食料・仕事・教育を含め衣食住の環境を整えるのが『為政者』の基本的な仕事なのだが・・・。専門評論家の言う政治体制は関係ない。儒教(陽明学)に基づく『帝王学』を含め孔子の『中庸』の精神で国民目線からの積み上げのバランスある『政治学』が必要である。中国の『三国志』時代の対応が必要である。インドにみられる東洋哲学的な行動が参考となる。
各国でインフレが高進しているが、各種の商品値上げで困窮(迷惑)するのはそれぞれの自国民であることを忘れている。政治の基本は国民であって、世界秩序ではない。同じことがコロナ対応でもいえる。
ウクライナの戦後復興費用および負担がどうなるか、G7等の先進国の負担となるようであるが、その原資が各国民の税金であることに変わりはない。さらに、中国・ロシアを排除した米国主導のサプライチェーンの再構築に5年で官民合わせて6000億ドルと報じられている。しかし、発展途上国を巻き込むことができるか疑問符がついている。
エネルギー供給についても備蓄原油放出で何とか凌ぐつもりでも、第二次オイルショック以降の備蓄戦略であったことが忘れられている。その補充するにはOPEC等の石油産出国の協力が必要であるが、補充コストは1バレル100ドルを超えることが予想(一説では130ドル)されており、今後に対する筋書きもない。しかし、ロシア崩壊を狙って、ロシアの豊富な資源の獲得を米国・西欧諸国が画策しているのであれば別である。オイルショック以降、冷戦状況下、イスラエルを使って米ソ対立を煽り、代理戦争と化した中東戦争を起こしオイルマネーの消費・欧米に資金を集め循環する仕組みを作ったように・・・。
いずれにせよ、ウクライナ戦争が終結しても、インフレの長期化からは逃れられない。これまで、欧米諸国の企業は、コストについては価格転嫁することでごまかしができたが、各国国民の所得が順調に増えるとは考えられない。
さらに利上げをきっかけに、スリランカのような発展途上国の借り入れ問題から食糧危機・メキシコ危機・アジア危機の再来が予想される。IMFの対応は数か月先のようだ。事実、国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局長代理のアンマリー・グルデウルフ氏は、債務危機に陥っているスリランカについて、金融引き締め、増税、変動為替相場制への移行といった方策を取るよう促した。さらに、スリランカの支援要請に対して「債務の持続可能性に向けた進展が融資の条件になる」と述べた。他人事のように形式的な対応で終わっている。一方、インドの協力が表明されている。日本も参加表明している。
小麦・パラジューム・アルミ・ニッケル・天然ガス等世界の供給に占める割合の多い資源・食料価格が上昇。コロナによるサプライチェーンの麻痺が解消されない状況でインフレの種を増やす結果となっている。今回の欧米の対応は経済運営上、自分で首を絞める状況となっており、金融政策の足かせとなってきた。ここにきて、ロシア・ウクライナの石油・天然ガス・石炭・小麦・トウモロコシ・飼料・肥料さらに半導体関連の主要原料の供給に関して警鐘がなり始め、欧米諸国のインフレ(物価上昇)の追加要因となった。市場は、サプライチェーンが国家体制(政治要素)とは別に、複雑に絡み合っている現実を認識し米国主導のロシア中国を除いた全く別の仕組みを作ろうと始めている。物価が上昇し、国民生活に影響が出ており、さらにコロナによるパンデミックも沈静化しているわけではない。
一方で、欧州では懸念の声が上がり始めたが、米国は大丈夫との安心感が前提となって今の相場が形成されている。米国が不況ないしスタグフレーションに陥る可能性を全く考慮していない。世界恐慌に近い状況になる可能性が高い。
米国の人口は3億人、英国・フランス・ドイツ等の西欧諸国の人口はそれぞれ4~6千万人、そのほとんどが移民で構成されている。過去、植民地時代その後の資本主義で潤ってきた国なのだろうか。ロシアでさえ1億数千万人。これに対して人口規模で異なっており、さらに植民地政策で苦汁をなめたインド(英国の植民地)・中国(アヘン戦争・日中戦争)のように14億人台を超える国民の生命・食料・生活を維持するする政治に対する姿勢(国家体制)・主義主張の違いがあってもおかしくはない。第1次・第2次大戦後独立した中東諸国・南米・アフリカ諸国にとっても同じである。既存のグローバルスタンダードの意義が問われている。インフレの一つの原因であるロシア産資源(原油・天然ガス)に対する制裁が完全に尻抜けとなった。ルーブル決済は企業の問題として制裁対象から外すとの判断が、22年5月16日EUの行政執行機関、欧州委員会から発表された。
さらに、22年5月17日米財務省当局者がロシア産原油の全面的な輸入禁止措置に代わる措置として、欧州各国に対し関税を課すよう提案すると表明。原油供給量の逼迫を低減する方向に舵を切った。しかし、制裁対象のロシア産原油は、インド・中国が引き受けており総量の調整は不可能となっている。石油価格の相場形成における米国の地位は低下、OPECプラス等のロシアを含む中東産油国が中心となっている。米国の指導力の低下が今回も見られた。
資金力・技術力に劣る資源を持つ国(ロシア)の主張が始まったと思われ、オイルショック(石油危機)時と同じ背景がそこにある。ただし、相手がロシアという軍事力のある大国であることは厄介である。
インフレの解決策である中央銀行による利上げが本当に特効薬となるか試されている。世界各国の実体経済の悪影響が出始めており、統計数値を待っている市場参加者が気づいた時、すでに遅いというデフレ・スタグフレーションの可能性は否定できない。欧米でインフレが進み実体経済への影響が統計数値に表れ始めた。アナキスト(無政府主義)である企業の収益確保が優先となっている。企業による価格転嫁による収益確保に対して原材料費・人件費高騰が減益要因となり、最終需要者である消費者にとって不利になり貧富格差の拡大がさらに進む結果となりつつある。そこでマルクス(共産主義を唱えた)が生まれたドイツを始めとした欧州各国がエネルギー関連企業から利益を還元するように要請を始めている。共産主義(社会主義)的発想(平等)の導入に変わりない。自由資本主義の欠陥の補完の動きとみるべきか。さらに、利上げによる副作用である企業倒産・失業対策が必要となる、スタグフレーションの状況となりつつある。ある意味でシンギュラーポイントがどこなのかが試されている。
さらに、ウクライナの戦後処理・再生費用が7500億ドル規模になりウクライナ大統領は支援を呼び掛けているが、欧米諸国・IMFを含めその余力はない。ロシアにその費用を持たせるには、ロシア本土に攻撃を仕掛けプーチン大統領を敗北に導く以外に方法はない。今一生懸命ロシアの戦争犯罪の証拠を探しているが、第2次大戦時の東京大空襲・沖縄戦の犠牲者に比べれば、さらに広島・長崎への原爆投下の行為と被害者の戦後の対応(実験の資料集めは継続されている事実)はどうなのだろう。
一方、仮想通貨の普及の動きに合わせ、ドル基軸通貨の脆弱性・米国軍事力の圧倒的な優位性が失われていること・世界政治経済の指導力に対する警鐘等が露見する結果となりそうである。第2次大戦後、ブレトンウッズ体制を基軸とするドル基軸の仕組み(固定相場;1オンス35ドルに固定)で戦後の欧州復興を後押ししたが、1971年、金本位制を放棄したニクソンショックが何であったかが問われている。
モルガン一族のように、第一世界大戦時と同様に、第2次大戦前に欧州にあった金を米国に集中逃避させた。その資本家が、第2次大戦後、欧州の復興に合わせ、米国から金の還元・流出が始まり、その流出量が多く、ドルの価値が大幅に低下した。金の産出量に限界があり、通貨の力(国力)を図る基準としての機能に限界(弊害)があったことも一つの原因である。その影響で米国経済が悪化。第一次大戦後の世界恐慌と同様の危機を避けるために、そして米国経済を維持するために、金本位制を放棄、米国ドルを基準とした通貨機能を創出し、一方で株式・債券・商品の取引市場を拡充、さらに資本市場を米国に集中させ、ドルを基準とした市場を形成した。さらに当時の圧倒的な軍事力を背景に、固定相場制であった通貨に変わり、変動相場制導入を主要国に従わせ、ドル規格を標準のものにし、ドルを金に変わる基準通貨に作り上げ、株式資本主義を盤石なものにして今に至っている。
ウクライナ国民の犠牲者が急増するも徹底抗戦としてロシアへの攻撃を中断することもなく、停戦交渉のテーブルに載っていない。欧米からの武器供与で反転攻勢との報道があるが、ロシアの人口と資源・軍事力さらに総動員法に向かっている現実との比較から、そろそろ落としどころを米国が進める時期にあるが、それができない。まるで第二次世界大戦時の(沖縄戦・東京大空襲)にも拘わらず、本土防衛・決戦とした日本軍の連合国軍への対応と同じ現象となっている。終戦のための方法について、生物兵器・化学兵器・核爆弾の使用が報道されている。第2次大戦時、最終的に核爆弾を実施したのは米国であった歴史を忘れてはならない。唯一の被爆国であり、日本の航空域制限等、今も戦後の体制は継続している。戦略的に、今回はロシアに核のボタンを押すように追い詰めているようだ。第二次大戦終戦(1945年)前後に生まれた、バイデン大統領・ウクライナのゼレンスキー大統領。プーチン大統領等『戦争を知らない子供たち』(北山修作詞)の世代のリーダーが世界を動かしている。
マスク着用問題等において『人間の自由の権利』主張が標榜され、コロナによる感染は個人の自己責任として片づけられてきた。今でも世界最大のコロナによる感染者数・死亡者数を誇っているのは米国である。自己責任としている。
自分を守り隣人(他人)に移さないようにする最善の方法がマスク着用であった。第一次大戦時『スペイン風邪流行』対応はワクチン・治療薬がなかったこともあり、戦争による死亡者よりスペイン風邪による戦意喪失とその犠牲者の方が多く戦争継続が困難となりドイツ軍敗退による戦争終決となった。
各国政府は自由主義・個人主義の名目で経済再生優先としてきた。一方、コロナ対応で中国主要都市でのロックダウン措置導入の動きが報道され、中国経済の弱体化を専門家・マスコミは報道している。また、中国を含めコロナ感染拡大によるパンデミックは終わっていない。
サプライチェーン・物流問題の長期化が懸念され始めた。トランプ政権時『自国第一主義』として中国経済制裁の一環で始められた関税はバイデン政権でも継続され米国インフレの一原因となっている。半導体・各種工業製品等の中国サプライチェーンの複雑さが認識され始めたところで、ウクライナ・ロシアにおける食料・資源の重要供給先であったことがウクライナ戦争で浮き彫りになった。22年5月11日、バイデン米大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻が世界的な食料価格の高騰を引き起こしていると非難、対して22年5月12日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ紛争を受けて西側諸国がロシアに科した厳格な制裁措置が世界的な経済危機と破滅的なインフレを引き起こしたとして双方責任転嫁している。
しかし、株式市場の下落、プライベートバンク等にみられるファンドの毀損、市場参加者機関の市場撤退による現金化が報じられている。市場が縮小方向にあることに変わりはない。インフレが現実のものとなり、中国関税・NATOを巻き込みウクライナへの武器供与による戦争拡大のきっかけを作った米国バイデン政権の失策であったことが明確になりつつある。覇権の競争と見過ごすことはできるのであろうか
世界経済の枠組みに亀裂が生じ、各国のインフレが国内問題となり、ロシア・中国等の結束を固める形となって政治経済ブロックの鮮明化が問題視され始めた。自由民主主義を守ると称して主導権を発揮した結果であろうか。
パンデミックが収まらず、サプライチェーン問題も解消されず、ウクライナ戦争が、ロシア対米国(NATO)の対立構造となってきた。さらに仮想敵国として中国もその対象としている。
小麦・食用油(トウモロコシ・パーム油)を含めて食糧危機の報道が始まった。異常気象の影響で世界的な穀物の不作が予想されており、綺麗ごとでは済まない古米・古古米の取り合いとなっている。ウクライナの昨年収穫の穀物輸送に注目しているが農地が荒れており、戦争で男手がなく今年の収穫は半分以下となろう。食糧危機が現実のものとなり、先進国もインフレに絡めて、後進国を補助・救済するとしても資金調達に問題が生じ始めている。欧米の大半が赤字国である。国力に限界がある。さらに、異常気象の影響により耕作物の減少が予想されており、インドのように輸出規制をする国が増えている。本格的な食糧危機は、これからである。



2023年03月20日更新


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